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チュウ太のウィーン日記 |
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2000年11月21日 火曜日
今日の授業が始まる15分ほど前に、キャンパスを歩いていると、学生の一人に呼び止められた。「先生。硫黄島って知っていますか?」「ええ。知ってるけど、どうしたの?」 聞けば、歴史の授業でレポートを書くことになり、早速インターネットで調べたのだけれど、アメリカ側からの情報はたくさんあっても日本からの情報発信がほとんどないので困っているという。確かに日本側からの情報が少ないということはありそうだが、情報検索の話をするにはもってこいのチャンスだ。「日本からの情報はそう多くはないかもしれないけど、ちょっと待っててね。私も調べてみるから。授業の時、報告するわね。」とさりげなく言って別れ、研究室に戻って、急いでネットを開く。 情報を得たいと思っている学生がいて、しかもインターネットで調べようとしたけれど、見つからないでいるという状況。こんなチャンスを逃す手はない。こんな時の検索は圧倒的にgooがいい。検索の種類もWEBサーチ・ディレクトリサーチ・ニュースサーチ ・企業情報サーチと豊かである。特にWEBサーチではかなり深いとろまで探し出してくれるので、ネット上に情報がありさえすれば、少なくともそのキーワードを含んでいるサイトを探し出してくれる可能性が高い。ただし、サーチ機能が優れている分ヒット数が多すぎて、あまりにも一般的な単語を入れたりすると、どのサイトに行けばいいのか肝心のサイトを見つけるまでに一苦労すると言う問題がある。その場合はキーワードを複数入力して検索をかける必要がある。 「硫黄島」に関しては、調べたけれど見つからなかったと言っていることだし、気楽にただ「硫黄島」とだけ打ち込んでWEB検索をした。結果はヒット数2327件。適合率の上位6件を転記すると次の通りである。
3.4.6.と見出しだけでもかなり使えそうな情報が入っていることが分かる。実際に開いてみると、3.は硫黄島戦についてかなり詳しい資料が提供されている。また4.は歴史と共に、現在の硫黄等とそこに残る戦跡等を写真入りで紹介している。6.は硫黄島戦に関する文献資料の一覧である。特に歴史や政治のように立場によって捉え方の異なるものに関してはネット上の情報のみを鵜呑みにするのは危険であるということはそれなりにきちんと言う必要があるものの、少なくともこのような資料が提供されていることは教えることができることを確認し、教室に向かった。 クラスのドアを開けるや「先生、ありましたか?」の声。もう待ちきれない様子。こちらもすぐに見せたいところだが、そこはぐっとこらえて、「ええ。たくさん見つかったわよ。でも後でね。コンピュータルームに行って、みんなで情報検索をやってみましょう。」たくさんあったと聞いて、ほっとしたのか嬉しそうな笑顔が返ってきた。 今日の授業内容は、まず、各自に届いているはずの中学生から来た手紙に、さらに返事を書かせることであるが、これは2度目の手紙だし手紙のやりとりばかりで1年を終えるわけにはいかない。各自が負担なく気楽に書けるように、手紙の返事は数行でいいから、自分たちで書いて送ってねという形で彼らの自主性に任せることにした。そしてクラスでは、今回新たに送られてきた「小学生からの手紙」を読むことにした。 小学生の手紙を急遽扱うことにした理由は三つある。一つは内容の面白さである。「外国の人に自分たちを紹介する手紙を書こう」という岡先生からの呼びかけに応じて書かれているので、自分たちの生活が実に生き生きと描かれている。次に表記法の面白さがある。漢字仮名交じり文で書かれているのだが、漢字熟語でも未習漢字はひらがなで表記されている。そのため「交通事こ」「国さいてき」という表記が含まれる。また拳銃はすべて「けんじゅう」とひらがなで書かれている。こうした文に触れることは、漢字の必要性を彼ら自身で感じることにつながるはずである。最後にこの小学生の手紙に出てくる「寒かけい(寒霞渓)」という場所や「よりのぼり」という魚をネットで検索させようというねらいがある。 とはいえ、そのまま小学生の文章を渡せば、学生達は「何だ今度は小学生か」と反応するであろう。そこで一工夫。あらかじめ助詞をあちこち抜いてしまった形で印刷したものを配布し、まずこれを読ませて穴を埋めさせることにした。こうした課題が与えられると学習者の反応は面白いほどに変わる。日本語力が高いと自負していている学生であればあるほど熱心に読み出す。一通り黙読し穴埋めが終わった時点で一緒に読解を開始する。上記の「交通事こ」「国さいてき」は、やはり思いがけない表記だったとみえ、すぐに「これってどう読むんですか」という質問がでてきた。またひらがなでかかれた「けんじゅう」についてはまるで意味がとれない学生もいて、小学生の面白い表記法のおかげで授業はかなり盛り上がった。そして最後に普段ひらがなの多い文を書く学生が一言。「やっぱりちゃんと書いてくれないと。これでも日本人ならわかるんですかあ。」 この小学生の手紙文は残念ながらチュウ太も上手に読めない。これをチュウ太の辞書ツールにかけると誤った分析が続出する。そもそもひらがなの多い文自体の分析が難しい。さらに漢字熟語の一部がひらがな表記という形は、茶筌の辞書にもEDRの辞書にも登録されていないので、全く分析できない。解決方法としてはこうした表記も含めて双方の辞書に登録するという方法がありはするが、果たしてそこまでする必要があるのかどうか。目下のところは、こうした表記は特殊な表記法ということでできるだけ避け、漢字熟語は漢字熟語として「きちんと」表記したものをテキストとして使ってもらうしかないと思う。 手紙は全部で11名分あるので5人の手紙を読んだところで時間になってしまった。残りは各自で読んでくることにして、パソコンルームへと向かった。 チュウ太のリンク集の「新しい情報を手に入れるために」からgooに行き「サーチ」のところに「硫黄島」と入力する。すると前述のリストが現れ、必要な情報が出ているページへとリンクをたどっていく。情報が出たところでおもむろに学生に質問をむける。「でもこの文章、難しいでしょう?」「大丈夫ですよ。チュウ太があるじゃないですか。あれがあれば何でも読めますよ。」しっかりチュウ太がインプットされているようである。でもチュウ太の辞書ツールも万能ではない。例えば兵器の名前のような専門用語は分析できない。「両軍の主な火力」の表をテキストボックス切り張りしてもどんな兵器の英訳は現れない。そうした限界は示した上で、あらためて歴史を記述した文章を切り張りさせ、この分析がうまくいくことを確認させる。あらかじめここまでは確認していなかったし、歴史に関する記述を切り張りしたのは私自身初めてだったので少々不安だったが、かなりきれいに辞書の表示が出てきてくれたのでほっとした。(チュウ太、でかした。) その後、各自に自分の専門領域の単語で検索し、これぞと思う情報を辞書ツールに切り張りするという作業を行わせた。法律を専門とする学生は日本国憲法の序文を、金融を専門とする学生はパソコンバンキングの説明文を張り付けていた。そして実際に辞書ツールを使う様子を眺めていると、中学生の意見文を読むときと比べて明らかに学生の取り組み方に違いがある。ともかく単語の意味を調べる回数が圧倒的に多い。また、辞書の内容を読んだ上で改めて本文を読みなおしている学生もいる。チュウ太の辞書ツールが本当に役に立つのは「読みたい」というレベルではなく「読む必要がある」というレベルの文なのかもしれない。 ☆一言メモ☆ 各自の専門領域の文章になると辞書のクリックの回数が圧倒的に増える。やはりチュウ太の辞書ツールは「読む必要のある」文章を読むときに真価を発揮するようだ。 付記 ところで、前述の学生が検索したときに何故必要なHPが出てこなかったのだろうか。はじめは学生が英語のサイトで「Iwojima」を調べたのだろうと思ったが、きちんと日本語の検索エンジンを使って「硫黄島」も調べたとのこと。そこで、学生が利用したというYahooで検索をかけてみることにした。すると次のような順で6件がヒットした。
このサイトのうち、まず1.もそれなりに情報がありそうなのだが、このページは基本的には個人的な硫黄島での体験が書かれたたものだった。2.も同様、そして3.が実際にはかなりの資料を提供してくれるページなのだが、タイトルが「硫黄島探訪」でトップページには美しい硫黄島の写真がのっているため、学生は観光案内と判断したようである。本当ならこのトップページにある目次に「8.硫黄戦資料他」とあるのでここをクリックすれば彼の必要な情報が手に入ったのだが、いくら優秀な学生とはいえ日本語学習歴2年では、これを見つけるのは困難だろう。その点今回紹介したgooのweb検索を用いるとこの資料のページに直接行き着くことができる。また、Lycosでも調べたところ、こちらもヒット件数は多く、しかもトップでこのページを表示してくれる。ところが検索結果を見ると同じサイトの別ページが7つも連続して表示されている。少なくともこの「硫黄島」に関する限りやはりgooの検索結果のほうが使いやすい。チュウ太のリンク集にも検索エンジンはこの順で掲載している。 彼が提起してくれた問題は、検索エンジンのあり方とホームページの作り方の双方についていろいろと示唆を与えてくれる問題だと言える。チュウ太のトップページも含めて、日本語学習者の視点から改めて見直してみる必要があるだろう。 |
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