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チュウ太のウィーン日記


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2000年11月15日 水曜日
英国日本語教育学会セミナー報告

11月11日に、イギリスの英国日本語教育学会(BATJ)がチュウ太のためのセミナーを開催してくれることになり、ロンドンに出かけた。「インターネットを活用した新しい読解教育」というタイトルで、チュウ太の仕組みと使い方そしてチュウ太を利用した授業の実際とをお話しする予定。そうはいってもチュウ太だけのためにいったい何人の方が集まってくださるのだろう。しかもイギリスでは数日前に大洪水があってまだ鉄道が復旧していないところもあるとか。半ば心配してでかけたのだが、寒空の小雨模様のロンドンに、なんと37名もの参加者があり、感激。(上の写真をクリックすると大きくなります。)

せっかく来てくださったのだから、それだけのものを得て帰っていただきたいと、できるだけ「おいしい」使い方をお話ししたつもりだが、果たして「おいしい」と思っていただけたかどうか。

さて、当日のメニューは前半でチュウ太の道具箱の4つのツールをお話しし、後半でチュウ太を使ったウィーン大学での授業についてお話しした。参加者のうち、すでにチュウ太の名前は知っていたという方が8名、そのうち4名が実際に授業にも活用しているとのことだった。イギリスでの発表は今回が初めてなので、この8名という数字は意外に多いという気がしたが、逆に言えば大半の方がチュウ太のことを知らないにもかかわらず来てくださったわけである。参加者がこれだけ多かったのは「インターネット」という言葉が日本語教育の世界でもそれだけ市民権を得つつあることを示していると言えるだろう。

前半はチュウ太を使ったことがある方はすでにご存知の部分も多い話だが、大きく二つに分けて説明した。

1.辞書ツール = 入力された文章をすべて自動で辞書引きする(日英辞書ツール・概念辞書ツール)

2.レベル判定ツール = 日本語能力試験に準じてテキスト中の語彙と漢字のレベル判定を行う(語彙チェッカー・漢字チェッカー)

この1.と2.とでは機能が大きく異なっている。しかも1.はどちらかと言えば学習者用のツールであり、2.は教師用のツールである。チュウ太のユーザーであっても、道具箱の4つのツールを全部使いこなしている人は意外と少ない。これは異なる機能のツールが同居しているため各ツールで何ができるのかがわかりにくいという問題があるようだ。こうした反省の意味もこめて、使ったことのない方でもチュウ太で何ができるかわかってもらえるように説明した。(つもりですが、わかっていただけましたか?>参加者の皆様)

辞書ツールに関しては、何よりまず、左の本文フレームの単語をクリックしさえすれば右の辞書が自動的にスクロールするという機能について強調した。日記でも以前にお話したように、気づかずに右の辞書をスクロールさせて使ってしまう学生がいる!という現状がわかったからである。また、語彙学習にとっては、リスト機能(左の本文フレームの一番下にある「list」ボタンを押すと学習履歴が表示される機能)は不可欠である。是非、学習者にはこのリストの存在を教えてあげてほしいし、可能であれば、学習終了時にこのリストにふりがなや意味を書いた物を提出させる等の形で学習過程の把握を行ってほしいと強調した。新しい辞書ツールもできあがり、チュウ太の辞書機能はかなり優れたものになったものの完全ではない。このような形で先生方がチェックしてくださることでその足りない部分を補っていただくことも可能になる。

レベル判定ツールに関しては、現在は上級学習者を想定して、デフォルト値を設定しているため1級以上の語彙が赤で表示されるようになっている。このツールの一番面白い使い方は語彙チェッカーの判定結果と漢字チェッカーの判定結果とを比較することである。漢字としてはすでに学習済みのものであっても語彙としては未習であるという語彙はきわめて多い。漢字の学習がすんでいるからといってそれを組み合わせた熟語の意味がすぐわかるわけではない。右に表示されるリストには、漢字の組み合わせから簡単に意味を類推できるものとそうでないものとが含まれている。語彙チェッカーの語彙リストは、未習語という基準からみると、学習者にとってわからない可能性のある言葉がこれほどたくさんあるんだということを示唆している。語彙チェッカーは、学習者の視点から改めて教材をながめ、教えなくてはならない語彙をとらえなおす場を提供しているといえよう。

後半はこの「チュウ太のウィーン日記」で毎週紹介している授業の様子を、中学生の意見文とウィーン大学の学生の手紙文をいくつか具体的に取り上げてお話しした。チュウ太の使い方もさることながら、ウィーン大学の学生達が生の教材に触れたときの喜びと、そこから生み出された心温まる手紙文の様子が充分伝わったのなら嬉しいのだが。授業紹介では、もう一つのクラスで行っている「天声人語」を用いた読解授業の紹介も行った。こちらの方は「ウィーン日記」では触れていないのだが今後何かの形で報告したいと考えている。

最後に、質問コーナーとアンケートで書いていただいたことのなかに、いろいろと貴重な質問や提案があったので以下に簡単に報告する。

Q:辞書ツールには使いたい教材を自由に入力できるか。

どんなテキストでも自由に入力して利用できるのがチュウ太の道具箱の特徴である。ところがこの質問にはさらに深い意味が込められていた。インターネット上にある生教材ではなく、学生達用に作成した教材を学生達に見せるにはどうしたらいいかという意味である。その場合でも、電子情報の形で作成したテキストであれば、先生自身のHPに置くなり、フロッピーで渡すなりして、それをチュウ太で学習するよう指示することで解決できる。

Q:他の言語の辞書ツールは作ることができるか。

原理的には可能である。辞書ツールの場合は無料で公開することが可能な、つまり、フリーウェアの形で提供されている当該言語と日本語との対訳辞書が必要となる。必要な語彙をもれなく収録した正確な辞書の作成というのは非常に難しくかつ大変な労力を必要とする作業である。フリーウェアの優れた対訳辞書が、提供されることを我々としても心から願っている。

Q:他の基準を元にしたレベル判定はできるか。

これも原理的には可能である。最も問題となるのはその基準にどれだけの意味があるのか、つまり、その基準がどの程度一般化可能かということである。それに伴い、開発の労力にみあう需要がどれだけあるのか、さらにどのくらいの期間有効な基準かという点からの検討も必要である。

Q:チュウ太自体を市販する予定はないのか。

これはセミナー以外の方からもよく聞かれる質問である。特にネット環境の整備されていない地域、機関では、ネットにつながないで利用できるシステムがほしいという声を耳にする。だが、現在チュウ太に使っている辞書は市販の「EDR日英対訳辞書」であり、これをEDR日本電子化辞書研究所のご厚意により公開させてもらっている。そのためチュウ太を個人あるいは機関が単独で使うにはまずこの辞書を購入する必要がある。ただし、教材バンクのみであれば、教育用の利用のみ許可するという条件で、ダウンロードできるような配慮も行っている。

このBATJのセミナー終了後、イギリスからのアクセスがどっと増えた。しかも早速教室で学生達に紹介してくださっている先生方もいるようである。システムをネット上で提供することも大切だが、こうした形で、チュウ太をどのように使うのか、どのような授業が展開できるのかを、実際に先生方に見ていただく機会を持つことの大切さを痛感している。今後も、是非、いろいろな国のいろいろな先生方とチュウ太の使い方についてお話する機会を持ちたいと考えている。

謝辞:チュウ太のためにこのようなセミナーの機会と意見交換の場を与えてくださったBATJの皆様には心から感謝いたしております。この場を借りて改めてお礼申し上げます。


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