|
チュウ太のウィーン日記 |
目次 | 前 | 次 |
2001年3月6日 火曜日
1ヶ月の学期休みも終わり新学期がスタートした。ウィーン大学の場合、前期科目と後期科目はそれぞれ独立した科目である。私は今学期も「応用日本語」と「上級読解」の2科目を出すことになるのだが、学生は同じ科目名であっても新しい科目として履修できる。そのため前学期の学生と新しい学生の両方が混ざるクラスになってしまう。前期の学生達の数名は今学期は論文を書かなければならないので出席できないという連絡が入っているが、1名でも2名でも前学期履修した学生がいれば、同じ事はできない。かといって、はじめての学生には前学期扱ったこともそれなりに教えたい。シラバス作りはなかなか難しい。 この日記でご報告している「応用日本語」の授業内容としては次のような内容を「科目案内」で学生達に知らせてある。 授業の概要
実際にはかなりレベルに差がある学生達が集まると予想される。どのように進めていけばいいのだろうか。あれこれ悩んだ末、次のような授業展開を考えた。 ☆授業の目的
☆授業内容
クラスに行ってみると、7名の学生が来ていた。(ほっ。)ところがそのうち3名は日本からの交換留学生。一人は小学校4年までは日本で教育を受けた元日本人。純粋の日本語非母語話者は3名のみだった。異文化理解教育のクラスと考えればこれほど理想的なクラス構成はないのだが、あくまでも日本語科目のひとつとして考えるとちょっと問題もある。そこで、まずはオーストリア人の3名(うち1名は前学期の履修者)を中心に授業をすすめることにする。 今学期はメール交換・意見文作成を中心におこうと考えていたので、授業第1日目の今日は導入授業として「ネット上の言葉の特徴を知る」と題し、メールで用いられる言葉の特徴や問題点をまずとりあげることにした。 生の教材をと考え、ウィーン関連の掲示版でのやりとりをコピーして配布した。「ウィーンに観光に行くのは6月と9月のどちらがいいか」という質問に関するやりとりである。この部分を選んだ理由はこの答えにあたる部分がネット社会の問題をかいまみせていたからだ。一人が「6月のほうがいいと思うが6月は残念ながらオペラはやっていない」という誤った情報を流してしまい、それに対して「知ったかぶりはしないでください」ときつい口調の書き込みが書かれている。これにはさらに別の人から「その言い方はまずいのでは」という一言があっておさまったのだが、こうしたやりとりを示すことで、見ず知らずの相手と接することになる場合の相手への配慮の必要性も同時に示すことができる。しかもネット社会の特有の表記法である「顔文字」や音調をあらわす記号(長くひっぱった音を示すマーク「〜」や小さい「お」や「う」など)も用いられている。これなら学生達も喜ぶだろうと学生達の顔を想像しながら印刷したものである。 授業開始にあたり、文化における習慣の違いがどんな問題を引き起こすかについて話しながら新しい学生の日本語力をそれとなくチェックした。この前置き段階での3名の反応はきわめてよく、何の問題もないように感じられた。さらに3名ともパソコンは使えるし、インターネットもよく利用しているとのことだった。そこで安心して上記の資料を配付し読んでみることにした。ところが実際に読みはじめると、今回から参加した学生2人は、新しい漢字熟語が出てくるごとに完全に読みがストップしてしまう。会話力・聴解力に比べると、彼らの漢字の理解度や読解力は極端に低いようだ。一度配った資料を回収し別のものを配布するわけにもいかず、新しい単語は次々と読みを黒板に書き、意味を教え、あるいは類推させるという形で読み進めていったが、これほど漢字が読めない状態では各々の言葉のニュアンスまで感じている余裕はなかったかもしれない。前学期の学生の質が全体的に高かったため、安心してしまい、つい非漢字圏学習者に対する十分な配慮を欠いてしまっていた。あとで考えると、その場ですぐパソコン室に行ってチュウ太を使わせるという手もありはしたのだが、この教材は一斉授業で扱いたかった。というわけで、かなり背伸びをさせる授業展開となってしまった。 その結果、今回初めて来た学生のうちの1人、日本語学習歴2年半という学生にはかなりショックを与えてしまったようだ。授業中は適宜彼女の様子を見ながら授業をすすめていたつもりだったし、反応もそれなりにいいから大丈夫だと思っていたのだが、授業後「先生、このクラスは私には難しすぎるようなので・・・」と言ってきた。心配しないようにと言った上で「次回から読む教材は前の週に渡すしインターネットを使った読解支援ツールも紹介するから、すぐに結論を出さないで、来週も来てね」と言って別れたが、さて、来週来てくれるかどうか。 というわけで、本日は勇みすぎて大失敗、で、し、た。 ☆一言メモ☆
読解教材を準備する場合、非漢字圏の学習者への配慮は十分すぎる位しておく必要がある。 |
目次 | 前 | 次 |