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チュウ太のウィーン日記


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2001年3月20日 火曜日

今日はオーストリア人の学生達がわいわい騒ぎながらまとまって教室にやってきた。どうもそれまで日本語自習室にいたようだ。そして今学期の初回の授業で難しすぎるみたいだと相談に来た学生Nさんも彼らと一緒にちゃんと来てくれたので、ほっとした。

さて、今日の教材は宿題として予習を課してあった意見文「死刑廃止(反対)」である。読解を始める前に漢字テストを実施することにした。予習してきた人にとっては復習になるし、してこなかった人にはそれなりのプレッシャーを与えようという下心である。テストは漢字のみのもの(読みと意味を書かせる)と漢字にふりがなを振ったもの(意味を書かせる)の2種類を準備しておいた。ふりがながあることがどの程度理解を助けるのかも見てみたいという目的もある。

ところがこの「ふりがなあり」のテストは結局使えずに終わってしまった。それというのも、ほとんどの学生が「ふりながなし」のテストですでに8割から9割近くできてしまったからである。大半の学生がチュウ太を使って十分に予習をすませてきていたのだ。Nさんも先週欠席だったが、今週の課題だけメールしておいたところちゃんと予習してきていた。予習には2時間近くかかったらしい。「でもあれならすぐに読みも意味もわかるので大丈夫です」とのことだった。

今日の意見文(引用)は、話し言葉的な表現が文中に混ざったり1文が長かったり文章表現についてあれこれ取り上げたい部分の多い意見文である。ほとんどの学生が予習がすんでいるので語句の説明はほとんどいらない。むしろ文章表現上の問題点を一緒に考えながら授業をすすめていった。

例えばこの文の序論は次の通りである。

死刑制度は犯罪防止に対して、やっぱり効果があり、ずっと存在すべきだと思っています。死刑廃止を主張する人たちは、えん罪の発生を防止するために、または犯人と言っても、その人の本性が悪いわけではなく、生活環境が人の人生を左右するのだから、全てを考えれば死刑にするのは残酷だから、廃止した方がいいと言う意見なのです。

この部分だけでも、チェックしたい項目がいくつもある。

  1. 意見文を「ですます体」にするか「だ・である体」にするか。(文体の選択と文体の統一)
  2. 「やっぱり」は「やはり」にする(文体に合わせた語の選択)
  3. 「思っています」は「思います」としたほうがいい。(時制の問題)
  4. 1文(特に第2文)が長い。(どこで区切り、どうつなげるかという文の接続の問題)
  5. 「左右するのだから」は「左右してしまう」とする方がより自然である。(心情表現)
  6. 「悪いわけではない」「左右する」と断定していいのかという問題
  7. 「全て」の指しているものが前出の場合「これら」で受けたい(結束性の問題)

これらをすべて細かくみていったら時間はいくらあっても足りない。今回学生達に最も考えて欲しいのは1.2.と4.である。あとは学生がどこまで気づくかに任せることにして授業を進めいく予定だった。ところが、日本語ネイティブとして育った学生が入っているこのクラスでは、誰かしらが問題点にきちんと気づき、結局全部の項目を取り上げざるを得ないことになってしまった。

この教材も先週の教材同様日本語学習者が書いた意見文のため、教材として面白い。ところが文の微妙なニュアンスまで細かく理解しようとする学生達相手の授業では、文そのものの読解というより、作者不在状態での作文指導のクラスといった趣になってしまった。学生達にとってこの作業自体は楽しいようで、皆それぞれ熱心にどう直したらいいか適切な代替案を考え出そうとしていたが、肝心のディスカッションの時間が少なくなってしまった。前回と同じテーマなので、これはこれで有意義だとは思うが、あくまでも意見文作成のための読解教材として考えた場合には今回の教材は適切な選択だったとは言えないと思う。日本語として適切でない表現が多く含まれる文章を教材バンクに入れることについては、今一度考えてみる必要があろう。

ディスカッションを終え、移動したパソコンルームでは、今学期からの人達にチュウ太の辞書ツールを紹介する。Nさんもきっと喜んでくれるだろう。

前回辞書ツールの存在をほのめかしておいたR君ともう一人の初心者M君とNさんとをパソコンの前にすわらせてチュウ太の辞書ツールの紹介である。まずリンク集から朝日新聞の「天声人語」を開く。そして一番上の今日の「天声人語」を選び、そのコラムをコピーする。そしてチュウ太の道具箱を開き、テキストボックスに、いまのコラムをペーストする。そして「辞書」のボタンを押すと・・・。チュウ太を知っている人にとってはもう当たり前のことなのだが、初めての人にとってはチュウ太の道具箱が魔法の箱に思えてくるようだ。3人とも嬉しそうに互いのパソコンを見比べている。R君が「すごいですね、先生」と一言。ところが、思いがけないことにそのR君が「でもチュウ太は『鬱』という漢字はわからないようですね」と言い出した。「鬱?ああ、常用漢字じゃないからわからないかも知れないけれど、ちょっと試してみましょうね」と、チュウ太に「憂鬱」と入れてみたところ、ちゃんと結果を出してくれた。(内心で得意になる。)そこで今度は「鬱」だけを入れると鬱だけでは辞書に登録されていないため、反応はない。(陰の声:困ったな。実際に「今日はちょっと鬱で」とか言うし・・・。)「やっぱり憂鬱って入れないと駄目みたいね。そのかわり、この鬱の字は常用漢字じゃないからひらがなにして『憂うつ』って入れてもちゃんと出てくると思うわよ。」で、チュウ太は無事「憂うつ」の辞書引きも行えた。

ただ考えてみると彼は単漢字を調べたかったようだ。そんなときのためにはMOKOがある。チュウ太開発の共同研究者である北村達也氏が中部大学の小森早江子氏と共同で作り上げたシステムで、漢字熟語に自動的にふりがなを表示し、しかもその漢字一つ一つが単漢字情報にリンクされている。MOKOがカバーしているのは常用漢字に限られているため残念ながら「鬱」の説明は出てこないので、今回は何も言わずに黙っていたが、非漢字圏の学習者にとっては役立つ場合もあるだろう。今度別の機会に紹介することにしよう。

そんなことを考えながら研究室にむかっている途中に、ふと気が付いた。今回R君にチュウ太の辞書ツールを紹介したらそれなりに嬉しそうな顔を見せてくれていたけれど、よくよく考えてみたら、彼は既に辞書ツールで「鬱」を調べてみていたわけである。今週まで待ちきれずあのあとすぐに、辞書ツールの使い方をクラスメートからちゃんと伝授してもらっのだろうか。学生達のやりとりを想像しながら一人で思わず笑ってしまった。

☆一言メモ☆
文章表現上で問題の多い文章を教材として用いる場合にはいろいろな注意が必要となる。日本語学習者が自律学習に使う可能性も高いことを考えると、バンクの教材として何をいれるかに関してはさらに吟味する必要がある。


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