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チュウ太のウィーン日記


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2001年3月27日 火曜日

今回チュウ太を使って予習するようにと指示した文章は短い文章で「死刑廃止(賛成も反対もしない)」である。新しい語彙もさほど多くないため、死刑廃止についての自分の意見も書いてくるようにという課題を出してあった。これは今学期はじめての書く課題だったが、短い学生で300字、長い学生は1200字程度の文章を書いてきた。各自の意見文はその場で提出してもらい、次回に互いの文章を読み合うことにして授業を開始した。

前回同様、まず漢字テストから始める。ほとんどの学生がきちんと予習してきたようだ。チュウ太の利用も定着してきた様子で教材バンクの教材を印刷して持ってきた学生までいる。それはそれで嬉しいことなのだが、今日のテストはさらにその先をねらっている。今学期の学生達をみていると、初めて見た漢字熟語に対しては最初からわからないものと決めつけている感がある。初見であってもその読みや意味を類推する能力を伸ばしていかない限り、新しい語彙はすべて調べなければわからないという状態にとどまってしまう。そこで今回の漢字テストには指定した教材に含まれていた漢字語彙(予習済み)に加えて、あえてそれ以外の漢字語彙(日本語能力試験1級相当)も含めておいた。すると予想通り、予習済み語句は読みも意味も書けるのに対して他の漢字はほとんどわからないという状況だった。

「やっぱり新しい漢字の言葉はむずかしいですよね。みなさんは漢字をどうやって覚えていますか。」と言いながら、さっそく用意してきたプリントを配る。漢字の特徴についていろいろ一緒に考えようという意図で用意したものである。今回のプリントでは次の項目を扱っている。

  1. 漢字の覚え方: 「あなたは漢字をどうやって覚えていますか」と問いかけ、いろいろな覚え方を示し、その中から自分の覚え方を選ばせる問題。
  2. 漢字の特徴抽出: 漢字の読み、意味、部首、品詞、役割等が同じものを並べ、「仲間さがし」をさせる問題。
  3. 漢字の造語法: 同一の漢字(今回は「出」)を前や後に含む2字熟語とその意味とを左右に分けて順不同に並べ、該当するものを選ばせる問題。

1.は、各自が自らの漢字の覚え方を内省するとともに他のやり方にも気づくことを意図して作成した。2.は、漢字のもつ特徴をいろいろな角度から考えさせるための問題で、漢字の読み、意味、部首、品詞、役割等に気づかせようという意図がある。3.は、熟語を構成する漢字から熟語全体の意味を類推させるとともに、同じ漢字でも前にある場合と後にある場合とでは熟語の意味の成り立ちが異なってくることに気づかせようというものである。

今回は初めてなので「完全に出来る必要はない、わかるところだけやってみよう」という形で楽しみながら挑戦してもらうことにしたが、2.3.のようなクイズ形式は学習者の興味を惹きつけるようである。しかも日本人留学生までも夢中になってやっていた。皆が一通り答え終えた段階ですぐ答え合わせを行った。ねらい通り、学生達はクイズという形を通して、漢字のどこに着目したらいいのかに興味をもってくれたようだ。互いの答えを言い合いながら、「そっか」「あ、それには気が付かなかった」とか口々に言っていた。また3.のような形で意味が示されていれば、どの熟語がそれにあたるのかを選ぶのはさして難しくないようだ。答えを選ぶ段階では難しいと言っていた学生も、答え合わせとしてみるとほとんどが正しい答えを選ぶことができていたようである。学生達から面白いという反応もあり、この形のクイズを来週からも何回か続けていくことにした。(陰の声:こうしたクイズを通して漢字熟語を類推する能力がどんどん伸びて行ってくれるといいのだが。)

結局、この漢字クイズと答え合わせにかなりの時間を費やしてしまい、教材の読解とディスカッションにさくことのできる時間は20分足らずしか残っていなかった。もっとも、今回の教材は文章も短いし、すでに同じテーマで3回目だということもあり、できるだけさらっと扱う予定だった。ただ文法的には次の文には是非とも着目させたかった。「自分の子供が殺された親たちがその犯罪者がどんな判決を受けたのか知りたがっているのに、判決が出るまでずいぶん待たせたり、裁判所が結果を教えてくれなかったり、犯罪者は未成年者だから責任をとらなかったりとか、大きな問題になりました。」この文をどう直したらわかりやすくなるかを考えてもらいながら、主語と視点との関係についてちょっと触れたいと思っていた。この文をどう訂正するかはやはりかなり難しい問題だったようだ。そもそも「は」と「が」の使い分け自体がむずかしい。そこにさらに視点の問題が絡むわけだから、一筋縄ではいかない。1文の中では視点を統一する必要があることを強調しておいたが、視点に関しては今後も適宜取り上げていく必要があるだろう。

一方、作者の意見について一番問題となったのは、「死刑にするかどうかを本当に被害者の遺族に決めさせていいのか」だった。「遺族の中で意見が分かれた場合はどうするのか」「家族が殺された怒りから、その時は死刑を望んだとしても、あとで後悔することがあるのではないか」「犯人が死刑になっても死んだ人は戻ってこない」等々の意見が出された。そして最終的には「この文は題名のように『反対も賛成もしない』のではなくて、結局死刑を認めているんですよね」ということでディスカッションは終わった。

☆一言メモ☆
非漢字圏の学習者の場合、初めて見た漢字熟語に対しては最初からわからないものと決めつけてしまう学生も多い。たとえ初見の熟語であっても漢字の組み合わせからその読みや意味を類推できるようになるのが理想であり、その能力を伸ばすための授業は不可欠である。


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