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チュウ太のウィーン日記 |
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2001年5月08日 火曜日
2週間の間、漢字の教材として何がいいかあれこれ考えた結果、意味から2字熟語を考える問題と類義語を考える問題とを準備して持っていった。B君もちゃんとクラスに来ていた。目があうとニコッとし「来ましたよ」という合図を向こうから送ってくる。ほっとしながら授業を始める。 意味から漢字熟語を考える問題としては「国」という言葉に関わるものと「学習」に関係する熟語を考える問題を準備した。「ある国に外から入る」「ある国から外に出る」「自分の国以外の国」「ある国以外の国」等の意味情報から「入国」「出国」「外国」「他国」等の語を思い出してもらおうというもの。これによって対になっている語を再認識したり、意味の微妙な違いを感じ取ってもらいたいというねらいが含まれている。対になる熟語は比較的簡単に思い付いたようだ。それに対して意味の近い熟語に関しては、説明そのものの意味の違いがはっきりと捉えられず戸惑っている学生もいた。「自分の国以外の国」と「ある特定の国以外の国」とはどう違うのか、わかった学生が黒板に図を書いて示すと、ようやく「ああそうか」と納得し、母国語で意味の違いをメモしていた。この「外国」と「他国」の意味の違いは、「昨日・今日・明日」と「前日・当日・翌日」との違いに似ている。基準点の置き方、視点の持ち方にかかわっている語のため、むしろこの意味の違いがはっきり認識できるように、両者を並べて意図的に教える必要がある。学習に関する熟語では「卒業」「退学」「中退」「停学」等の意味の違いに着目させた。いろいろな漢字熟語が作られるのはこうした細かな意味の違いを区別するためなのだと説明したところ、皆それぞれに納得した様子。B君もそのあたりの面白さがわかってくれたかな。 意味から熟語を考える問題にかなりの時間を使ったので類義語を考える問題は来週扱うことにした。宿題として「伝える」の意味を持つ類義語を出来るだけ沢山見つけてくるようにと指示した。どのくらいまじめに取り組んで来てくれるだろう。 残りの時間はパソコンルームに向かう。久しぶりにインターネットを利用した授業である。春学期も今日から後半に入った。授業計画を作成した段階でが後半は日本の情報を集めてそれを報告文にまとめさせることを考えていたが、学生達の様子をみていると情報検索はすでに自由にやっているようだ。しかも、それぞれが自分なりのやり方でチュウ太も利用しているようだ。だとすると授業ではむしろ自分たちの考えをできるだけ正確に人々に伝える情報発信の方に重点を置いた方がよさそうだ。せっかくの機会なのでみんなでウィーンから日本の人達に向けた情報発信をすることにしたらどうかと持ちかけてみる。そしてホームページも作ったらどうだろうという呼びかけには大半の学生が心動かされたようだ。 そこで、学生達に、まず、Japan Thru Young Eyes を紹介した。日本の大学生達が日本を紹介しているホームページである。英語の授業の一環として作成されているので日本語版と英語版がある。日本の文化や生活がイラストや写真入りで説明されているため、日本語学習者にとっても、わかりやすい。皆であれこれ見ていった。「おにぎり」と「日本料理とテーブルマナー」のページが好評だった。ところが、1人の学生が「でも先生、いい情報を集めるには時間がかかりますよ。僕も自分のホームページを作ろうとしたんですけど、時間がなくてやめました」と言い出した。こちらとしてはあと2ヶ月もあるし時間は充分あると考えていたのだが、おそらく彼は大がかりな物を考えているのだろう。「ええ、確かに。でももう少し気楽に考えて、みんながそれぞれ持っているウィーン情報の紹介というのでもいいんじゃない?美味しいレストランとか、素敵な散歩道とか。どうかしら?」「あ、それならいいですね。じゃ、僕はホイリゲを紹介します。」 相談の結果、内容は「おすすめの○○○」で、来週までに各人で「おすすめ」を考えてこようということになったが、皆の頭の中には来週を待たずに書きたいことが次々に浮かんできたようだ。「あ、じゃ、ビヤ・バーがいい。」「僕は日本料理屋にします。」「私は公園。」と口々に言い出す。なかなかいい雰囲気だ。とは言え現実にホームページ作成を目指すとなると、ホームページ作成ソフトに何を使い、ホームページをどこに置き、だれが管理するかという大きな問題がある。さて、どうしよう。「じゃそれぞれで原稿を作ることにして、ホームページはどんな風にしましょうか。」そこに、助っ人、登場。工学部に籍を置く日本からの留学生T君である。ネット上にフリーウェアで提供されているソフトを使って、まずどこまでできるか試作品を来週までに作ってみてくれるとのこと。「うまくいけばいいですけどね。だめだったらホームページ作成ソフトを手に入れないといけませんね。」何の下話もなしに持ち出した提案だったにもかかわらず、快くサポートしてくれるT君には深く深く感謝する。 そして今回も話は授業後に続く。オフィスに戻って仕事をしていると、ドアをノックしてT君が入ってきた。「先生、できました。」「え?何が?」「ホームページの見本、出来ました。」なんと授業後すぐに取りかかり、さっそくホームページの基本形を作ってくれたのだ。きれいな写真入りの表紙に数ページの見本ページがリンクされている。どんな形のものが出来上がるのかを知るには最適の見本だ。これがあれば、他の学生達は自分たちが何をしたらいいかよくわかる。それぞれがテキストと画像を用意してページの色やフォントの大きさを自由に決めていけばいい。「すごいねえ。これならみんな喜ぶわよ、きっと。」本人によれば「これが工学部の気合いを入れた時のすごさ」だとか。持つべきものは「いい学生」である。 ☆一言メモ☆
コンピュータ世代の学生の中には、パソコンやインターネットについて教師以上に詳しい学生も多い。教師主導型ばかりが授業ではない。学生達にも潜在能力をどんどん発揮してもらうこと、これもまたインターネット時代の新しい授業形態に不可欠な要素なのかもしれない。
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