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チュウ太のウィーン日記


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2001年5月15日 火曜日

今日の授業の前半は「伝える」の意味を持つ類義語についてのディスカッション、後半はHPのアウトライン作成である。学生達は宿題をどの程度やってきたのだろうか。

「伝えるの意味の熟語、探してきた?」と聞くとそれぞれが嬉しそうな顔をしている。熟語が書き出してあるノートをおもむろに開く学生もいる。皆、あれこれ探してきたようだ。さっそく順番に読み上げてもらい、黒板に次々と書いていくことにした。「伝達」「伝言」「伝導」まではよかったが、そこに突然「でんせん」と言い出した学生がいる。「え?電線?確かに電気を伝えるものだけど『伝える』の意味はないんだけど。。。」「いいえ、『伝える』の『デン』と、えーと。。。」「あ、『伝染』ね」「伝染する」は「伝える」ではなく「伝わる」だが、あとで自動詞と他動詞の区別を教える事も出来るので、黒板の右隅に「伝染」と書く。次に上がった「伝来」もその下に並べる。

ところがその時、次の学生が「でんそう」と言う。「確かに電波で情報を伝えることには違いないけれどよくこんなのを見つけだしたな」と思いながら「電送」と黒板に書くと、「いえ、それじゃなくて、『伝える』に『送る』です」と言い出す。なるほど「伝送する」という言葉はありはする。だが、日常生活ではまったくといってよいほど使わないし、新聞でもほとんど目にしない熟語である。「こんな言葉どうやって見つけたの?」と聞こうとして、はたと気が付いた。電子辞書である。このあたりが従来の紙の辞書との違いである。「漢字検索」機能を使えば「伝」の字の含まれた熟語を一度に表示してくれるのだ。ウィーンに来るにあたって、私自身も電子辞書を手に入れて持ってきた。ところが国語辞典や英和、和英は使ったが「漢字検索」や「慣用句検索」の機能はこれまでほとんど使ったことがなかった。学生達のほうがむしろこうした機能を使いこなしているようだ。このあたりの機能をうまく教育に活用していけば語彙学習・漢字学習の新しい展開も考えられるかもしれない。

こうして「伝」のつく熟語は次々と上がったのだが、電子辞書に頼った学生からは、こちらの期待していた「通知」「通達」「通告」「通報」「告知」「告白」等、「伝」以外の漢字を含む熟語は全く出てこない。そこで、例をいくつか示しながら「伝」以外の熟語も上げてもらうことにした。幸い日本語を母語としている学生も加わっているクラスのため、例をちょっと示すとそれなりに出てくる。一通りいろいろなバリエーションが出たところで、意味の分類作業に入る。

まず、自動詞他動詞の区別の問題がある。板書の際にさりげなく分けて書いておいた「伝染」「伝来」と「伝達」「通知」を用いて短文を作り、「する動詞(サ変動詞)」にした場合、自動詞になるものと他動詞になるものがあること、そして「伝染」と「伝来」では同じ「伝わる」であっても主語となるものが違うことを示す。次に他動詞となる熟語の分類に入る。各々の語の使われ方や細かな意味の違いを考えながら、「伝える手段が限定される熟語(通知、通報など)」「伝える内容が限定される熟語(伝言、伝導、告知、告白など)」「伝える主体と伝える相手(つまり伝える方向)が限定される熟語(通達、通告、報道など)」に分類していく。もちろんこれはきれいに3分類できるものではない。むしろ「通報」のように手段も内容も方向も限定されるものも多い。漢字熟語はこうした細かい意味の違いを区別しているのだということをわかってもらうための作業だったのだが、どこまでわかってくれただろうか。

最後に次のように結んでおいた。これらの単語は改まった場面や文章によく使われ、日常会話ではほとんどの場合「伝える」という一言ですんでしまう。しかも普通の辞書に個々の単語の細かい意味の違いがはっきり示されていない場合もある。ただ辞書をよく読めば、こうした情報も出ていることが多い。例えば「伝言」では「用件を」と内容が示され、「通告」では「公共機関が」と主体が示されている。細かい意味の違いをきちんと知りたければ類義語辞典等を活用する必要がある。大切なことは新しい漢字熟語を学ぶとき、こうした意味の違いがあることにも注意を向けていくことで、それによって漢字の世界がもっとよく見えてくると思う。

授業の後半は(といっても実質15分ほどしかなかったが)パソコンルームに行ってHPのアウトラインを決めることにした。まずT君が作ってくれたHPを参考にさせてもらった。トップページにはタイトルとウィーンの写真がある。写真の下に各自のページのタイトルがあり、そこにリンクが張られていて各人のページに行けるという流れである。階層が深くなると使いにくくなるのでできるだけ少ないステップで各自のページに行きつける必要がある。その点この構成なら使いやすいだろう。しかも彼は自分が紹介したい「おすすめ」もすでに写真入りで載せてくれていた。おかげで他の学生にも自分たちがどのようなものを作ればいいのかがよくわかったようだ。

相談の結果、トップページには以下のものをいれることになった。

  1. タイトル
  2. 表紙の写真
  3. HPの内容を示す説明文
  4. 各自のページのタイトル
  5. 意見やコメントをもらうためのメールアドレス
掲示板も作りたいという意見も出たが今回は見あわせることにした。

各自が作ろうしている「おすすめページ」の内容を発表してもらったところ、「ホイリゲ」「ビアホール」「アイスクリーム屋」「日本料理店」「洋服屋」「教会」「公園」「携帯電話」「オーケストラ」と、それぞれ上手に「おすすめ」を見つけたようだ。しかもうまいことに重複はなく、いろいろな領域が含まれている。これはなかなか楽しいHPになりそうだ。クラス9名のうち自分でHPを作った経験があるという学生が4名いる。やったことがない学生はそれらの友人から個別に教えてもらうことになった。来週までにクラス全体のHPのタイトルと各自のページの概要を考えてくることを宿題にして授業を終えた。

☆一言メモ☆
漢字熟語の使い分けは難しい。何のためにこんなに複雑なのかと悩む学習者の気持ちもよくわかる。意味の違い、使い方の違いを、やさしい言葉ではっきり示した辞書の必要性を痛感する。


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